"Don't Overthink Shit" ── Kenny Beats が築いた即興ビートメイキングの聖地 The Cave
Kenny Beats 登録者 80.4万(2026年3月時点)
EDMデュオ LOUDPVCK を経てヒップホップに転身した Kenny Beats。ゲストラッパーと即興でビートを作り上げる「The Cave」シリーズが1,000万再生を超え、Twitch のビートバトルには Billie Eilish も審査員として参加。現代ヒップホップ制作文化の震源地を紹介。
「ビートを作るのに10分もいらない。大事なのは考えすぎないこと」── Kenny Beats のチャンネルを一言で表すなら、この哲学がすべてです。ゲストラッパーをスタジオに招き、目の前でゼロからビートを組み立て、その場でフリースタイルを乗せる。たった10分で生まれる化学反応が、1,000万再生を叩き出してしまう。それが The Cave という場所です。
チャンネル概要
Kenny Beats(本名 Kenneth Charles Blume III)は、コネチカット州グリニッジ出身、現在ロサンゼルスを拠点とするプロデューサー。2018年にYouTubeチャンネルを開設し、登録者数は約80万人、総再生回数は8,600万回超。動画本数は95本と決して多くありませんが、1本あたりの密度が桁違いです。
9歳でギター、11歳でドラムを始め、高校時代にはエレクトロニック・ミュージックの全米コンテストで準優勝。名門バークリー音楽大学に進学し、そこで出会った Ryan Marks と EDM デュオ LOUDPVCK を結成。数年間のワールドツアーを経て、2017年にソロに転向。約半年間 LA のスタジオにこもってヒップホップの最前線を学び直し、「Kenny Beats」として再出発しました。
以降の活躍は凄まじく、Vince Staples『FM!』のほぼ全曲プロデュース、Denzel Curry『UNLOCKED』、Freddie Gibbs『Freddie』、Rico Nasty『Anger Management』など、現代ヒップホップの重要作を次々と手がけています。2022年にはソロデビューアルバム『LOUIE』を XL Recordings からリリースし、グラミーにもノミネートされました。
こんな人におすすめ
- ビートメイキングのライブプロセスを見たい人(しかもトップレベルの)
- ヒップホップの「裏側」── プロデューサーとラッパーの化学反応に興味がある人
- Denzel Curry、Vince Staples、Thundercat、Doja Cat あたりのアーティストが好きな人
- 自分もビートを作っていて、Twitch のビートバトルコミュニティに参加したい人
- EDM からヒップホップへの転身という異色のキャリアに惹かれる人
言語・字幕について
The Cave は会話がメインのシリーズなので、英語のリスニング力がある程度必要です。ただし自動生成の英語字幕が利用可能で、ビートメイキング部分は Ableton Live の画面操作が映るため、英語が分からなくても制作プロセス自体は追えます。ゲストのフリースタイルパートはスラングが多く、字幕なしだと難しいかもしれません。
チャンネルの雰囲気
The Cave の映像はシンプルですが完成度が高い。Kenny のスタジオにゲストが到着するところから始まり、軽いトーク → ビートメイキング → フリースタイル → リアクションという一連の流れが毎回10分前後に凝縮されています。
Kenny 自身の人柄が映像のトーンを決定づけています。常にリラックスしていて、ゲストをいじりながらも敬意を忘れない。ビート制作中も「Don’t overthink shit(考えすぎるな)」の精神で、迷わずサンプルを選び、ドラムを打ち込んでいく。この潔さが視聴者にも伝染して、「自分もやってみよう」と思わせる空気があります。
編集は必要最小限。リアリティ番組のような構成でありながら、過度な演出はなし。ゲストの素の表情と、ビートが形になっていく過程をストレートに見せるスタイルです。
The Cave ── 全4シーズンの軌跡
The Cave は2019年3月にスタートし、全4シーズン・35話以上が制作されました。フォーマットは一貫してシンプル:ゲストを招き、Kenny が即興でビートを作り、その場でフリースタイルを録る。
シーズン1(2019年) — JPEGMAFIA を第1話に迎えてスタート。Rico Nasty、Freddie Gibbs、Zack Fox と続き、最終話の Denzel Curry 回は約700万再生を記録。シリーズの「伝説化」を決定づけたシーズン。
シーズン2(2019〜2020年) — Danny Brown、Thundercat、Marc Rebillet、Joji など、ジャンルの垣根を超えたゲストが登場。Marc Rebillet 回の即興セッションは273万再生で、音楽ジャンルの壁を壊すシリーズの本領発揮。
シーズン3(2021〜2022年) — ビートバトル企画と連動し、コミュニティとの距離がさらに近づいたシーズン。
シーズン4(2023〜2024年) — Ski Mask the Slump God の回で復活し、ScHoolboy Q 回で幕を閉じました。
注目の動画
- Zack Fox 回(S1E5) — シリーズ最多の1,000万再生超。Zack Fox の自由すぎるフリースタイルと Kenny の爆笑リアクションが奇跡の相性。ここから生まれた「Jesus Is the One (I Got Depression)」は公式リリースされた唯一の Cave 産楽曲
- Denzel Curry 回(S1E12) — 約700万再生。シーズン1のフィナーレにふさわしい圧巻のパフォーマンス。Denzel の集中力と Kenny のビートが完璧に噛み合った名エピソード
- Vince Staples 回(S1E6) — 約648万再生。Vince の淡々としたユーモアと Kenny との掛け合いが絶妙
- Doja Cat 回(S1E7) — 約430万再生。ブレイク前夜の Doja Cat の才能が垣間見える
- Marc Rebillet 回(S2E11) — 約273万再生。ループペダルの即興パフォーマーとの異種格闘技。ジャンルが溶け合う瞬間
『LOUIE』── 父への手紙
2022年8月リリースのソロデビューアルバム『LOUIE』は、The Cave とは全く異なるトーンの作品です。膵臓がんと診断された父親との会話の録音を軸に、17曲のインストゥルメンタルを構成。Vince Staples、Slowthai、JPEGMAFIA、Thundercat、Remi Wolf がフィーチャーされています。
「ヘッドフォンアルバム」と評された繊細なサンプリングワーク、完璧なチョップ、そして個人的な物語が溶け込んだこの作品は、「ヒットメイカー」というイメージの裏にある Kenny の音楽家としての深さを証明しました。
ビートバトル ── Twitch で13万人のコミュニティを作った男
Kenny Beats のもうひとつの顔が、Twitch でのビートバトルコミュニティ運営です。視聴者にサンプルを配布し、制限時間内にビートを作って提出、みんなで投票する。このシンプルなフォーマットが巨大なコミュニティに成長しました。
審査員には Billie Eilish & FINNEAS、Mike Dean、Benny Blanco、Skrillex といったビッグネームが参加。Discord サーバーは13万人以上が参加し、音楽制作の Q&A からエンジニアリングの相談まで、24時間生きた情報が飛び交っています。
この活動全体を貫くブランドが D.O.T.S.(Don’t Over Think Shit)。リアルイベントも開催しており、セントラルパークでのライブイベント「KENNY BEATS & FRIENDS」なども行われました。
使用機材・ソフトウェア
- DAW: Ableton Live(以前は Logic Pro を使用)
- シンセ: Yamaha DX7、Teenage Engineering OP-1
- プラグイン: Spectrasonics Omnisphere 2、Native Instruments Kontakt 5、Waves CLA Vocals、Soundtoys PanMan
- アウトボード: TUBE-TECH CL-1B コンプレッサー
- モニター: FOCAL Alpha 80、ADAM Audio A77X
808 の扱いに独自の哲学があり、何千ものサンプルから厳選した20〜30個だけを使い回す。過度な EQ やサイドチェインは避け、「元から良い音を選ぶ」というミニマルなアプローチが特徴です。
チャンネルの歩き方
まずは Zack Fox 回か Denzel Curry 回から。この2本で The Cave の空気感と面白さが一発で分かります。
次に、自分の好きなアーティストの名前で検索。Thundercat、Vince Staples、Doja Cat、Danny Brown、JPEGMAFIA など、きっと好きなゲストの回があるはずです。
ビートメイキングのプロセスに集中したいなら、Marc Rebillet 回がおすすめ。異なるアプローチの即興が衝突する瞬間は、制作者として刺激を受けること間違いなし。
The Cave を一通り見たら、アルバム『LOUIE』のフルビジュアライザー動画(33分)をヘッドフォンで。Kenny Beats の「もうひとつの顔」が見えてきます。
関連チャンネル
海外
- Verysickbeats — ブーンバップのチュートリアル&ビートメイキング解説。The Cave が「見せる」なら、こちらは「教える」スタイル
- Cookin Soul — MPC で90年代ヒップホップの魂を現代に蘇らせるプロデューサー。Kenny とはアプローチが対照的で面白い
- pilotkid — DJ Premier も認めた新世代ブーンバップの旗手。Kenny の Trap 寄りの音と聴き比べると面白い
- Navie D — カナダ発の Boom Bap チュートリアル専門チャンネル。The Cave で刺激を受けたら、こちらで基礎を学ぶ流れが最適
日本
- MCKNSY — 日本初のタイプビート専門プロデューサー集団。Kenny のようなプロデューサー主導の文化を日本で実践
- MonkeyMuzik — ブーンバップ+ジャジー+ローファイに一貫特化した日本のビートメイカー
まとめ
Kenny Beats は「プロデューサーが主役になれる」ことを証明したチャンネルです。The Cave は単なるビートメイキング動画ではなく、アーティスト同士の化学反応を映し出すリアリティショー。EDM からヒップホップへの転身、グラミーノミネート、13万人の Discord コミュニティ、そして父への手紙としてのアルバム──多面的な魅力が詰まっています。ビートを作る人も、ヒップホップを聴く人も、「考えすぎるな」の精神で、まずは Zack Fox 回を再生してみてください。