定点観測 レコードディグ 2026-Q3

【2026 Q3】海外ヴァイナル系YouTube ── 聴く・買う・掘る・商う

5チャンネルを横断し、海外のヴァイナル系YouTubeが「聴く場」から機材選び、e-Digging、店舗・レーベル運営まで広がる現在地を読む。

次回更新予定: 2026年10月

ヴァイナル復活は、もう一時的な懐古ブームではありません。IFPIによると、2025年の世界のヴァイナル売上は前年比13.7%増で、成長は19年連続。米国では2025年の卸売ベース売上が10億ドルを超えました。

では、レコードをめぐるYouTubeは何をしているのか。ChannelThreadで紹介してきた「レコードディグ」カテゴリが5本に達したので、2026年Q3の現在地を横断してみます。見えてきたのは、単なる盤の紹介ではなく、聴く、買う、掘る、商うという一連の流れを支える生態系でした。

この記事は 2026年7月31日 時点の情報です。次回更新予定: 2026年10月

今の状況

今回の母集団は5チャンネル。2026年7月31日にYouTube公式APIで、各記事に登録された5つの主要チャンネルIDを再計測すると、合計2,584本の動画が公開されています。

チャンネル主な役割現在の規模直近の形式活動状況
My Analog Journal聴く・世界の音楽と出会う112万人 / 473本約42〜46分のDJセット2026年7月も週次更新
Channel 33 RPM買う・使う・手放す8.95万人 / 832本約7〜10分の機材・収集ガイド2026年7月も週次更新
Noble Records掘る・見立てる・再び流通させる13.4万人 / 577本約24〜34分の買い付け・選盤2026年7月も更新
Too Many Records語る・店とレーベルへつなぐ5.52万人 / 610本約2〜12分の新入荷・買い付け2026年7月も更新
Vinyl Frontiere-Digging・制作素材を見つける複数チャンネル計約2万人1曲単位の音源アーカイブ現在確認できる主要2チャンネルは2025年6月が最終

※ My Analog JournalはYouTube上の現在名が「MAJ」。Vinyl Frontierは複数チャンネルで構成されるため、単独チャンネルの数字ではなく記事で追っているネットワークの概数です。

この5者は同じ「ヴァイナル系」でも、競合というより役割分担になっています。My Analog Journalで知らない音楽に出会い、Channel 33 RPMで再生環境や保管を学び、Noble RecordsやToo Many Recordsで盤の背景と市場を知る。ビートを作る人なら、Vinyl Frontierでさらにサンプル候補を掘る。

つまり「聴く→買う→掘る→商う」は、チャンネルを四つの箱へ分類する言葉ではありません。一枚のレコードが、誰かの耳に届き、棚に入り、発見され直し、次の持ち主や作品へ渡るまでの導線です。

目立った変化・トレンド

いちばん大きいのは「聴かせる」チャンネル

各記事に登録された5つのチャンネルIDの公開登録者数を単純合計すると約140.6万人。そのうちMy Analog Journalだけで112万人、約8割を占めます。ここでは複数チャンネルに分かれたVinyl Frontierのネットワーク合計は使わず、記事の主対象であるEast 2だけを数えています。

レコードの知識を解説する動画より、レコードを実際に聴かせる動画の方が圧倒的に大きな入口になっている。これは重要です。My Analog Journalの視聴者は、ターンテーブルを持っていなくても参加できます。タイトルで国、時代、ジャンルを選び、約45分のセットを再生するだけでいい。英語力も必要ありません。

2026年6月末から7月にかけて、コロンビアのサルサとクンビア、世界のファンク、1970年代イタリアのジャズとライブラリー音楽、サイケやダブまで、毎週違う扉を開いています。YouTubeはレコードの代用品ではなく、次に聴きたい一枚を見つける巨大な試聴室になっています。

「語る」3者は、初心者を門前払いしない

トーク系のChannel 33 RPM、Noble Records、Too Many Recordsに共通するのは、知識の多さを優位性として振りかざさないことです。

Channel 33 RPMは、元新聞記者のFrank Landryが「友人に勧めるなら」という基準でターンテーブルを比較します。高級機だけでなく、予算、品質、保管、反り、内袋、コレクション整理まで扱う。2026年7月には視聴者の音楽部屋「Vinyl Dens」を紹介し、物を買う話から、どう暮らし、いつ手放すかへ視点を広げました。

Noble RecordsのDillon Smithは、希少盤や初版を扱いながら、レコード店のエリート主義を明確に避けます。Too Many RecordsのMatt Kesslerも、コレクターの友人が薦めるような語り口を保ったまま、店舗の新入荷や日本でのディグを見せる。

ヴァイナル市場が19年連続で成長し、新しく入ってくる人が増え続けるからこそ、知識を囲い込まない案内役が必要になっています。

YouTubeが実店舗とレーベルへつながっている

この母集団で最も面白いのは、動画の外にある事業です。

Noble RecordsとToo Many Recordsは、どちらもコレクターのYouTubeが実店舗へ育ったチャンネルです。さらに両者とも自主レーベルを運営し、盤を紹介するだけでなく、実際に市場へ戻しています。

Noble Recordsの「Vinyl House Call」では、個人が生涯かけて集めたコレクションを訪ね、状態や内容を見て買い付ける。2026年7月の動画でも、録音エンジニアが残したクラシックロック盤とオーディオ機器を家族から引き継いでいます。店で売る前の査定、歴史、家族の記憶までが一本の物語になる。

Too Many Recordsの最近の動画はさらに店の日常へ近く、入荷予告や「自分の店から持ち帰った盤」を2〜3分で紹介します。YouTubeから店が生まれ、今度は店で起きることがYouTubeの素材になる循環ができています。

登録者数だけならMy Analog Journalが圧倒的ですが、生態系の深さは登録者数と比例しません。5万人規模でも、動画、実店舗、レーベル、イベントがつながれば、地域のレコード文化そのものを動かせます。

ディグは「現地へ行く」と「画面で掘る」に分かれた

Noble Recordsがコレクター宅や倉庫へ出向く物理的なディグだとすれば、Vinyl Frontierはe-Diggingの極です。

画面に出るのはレコードジャケットと曲名。トークや演出を削り、日本、韓国、香港、台湾などの盤から、サンプリングの耳で聴きたくなる音源を一曲ずつ置いていく。リスナー向けの選曲であるMy Analog Journalに対し、Vinyl Frontierは「このイントロ、このブレイクをどう料理できるか」と考えるビートメイカー側のアーカイブです。

ただし、ここには温度差もあります。ほかの4チャンネルが2026年7月も更新している一方、今回APIで現存を確認できたVinyl Frontierの主要2チャンネルは、2025年6月を最後に更新が止まっています。ネット上の音源アーカイブは、投稿者の活動場所、権利処理、プラットフォームの判断に左右されやすい。次回はYouTube外のコミュニティを含め、プロジェクトがどこを本拠地にしているのか再確認が必要です。

日本盤は「珍しい脇道」ではなくなった

日本の読者にとって見逃せないのが、5チャンネル中4つで日本盤が明確な入口になっていることです。

  • My Analog Journal — 日本のシティポップ、ソウル、ジャズを世界向けのセットとして選曲
  • Vinyl Frontier — 日本、韓国、香港、台湾の盤をサンプル候補として継続的に発掘
  • Too Many Records — 2026年にも日本でのディグと、自宅から買える日本盤の探し方を公開
  • Channel 33 RPM — 日本盤の開封、帯、海外版と異なるジャケットや仕様を紹介

海外から見た日本盤の魅力は、音楽ジャンルだけではありません。帯、別ジャケット、プレス、流通の違いまで含めて一つの文化になっています。シティポップの一過性の再評価を越え、日本盤をどう見つけ、どう聴き、どう語るかがヴァイナル動画の定番テーマへ定着しています。

具体例:5チャンネルから見える循環

聴く ── My Analog Journal

約45分のDJセットを毎週公開し、世界各地のコレクターやDJをゲストへ迎える。盤の価格や希少性より、曲順と空間で音楽を届けます。2026年Q3のヴァイナルYouTubeで、最も広い玄関です。

買う・暮らす ── Channel 33 RPM

初心者向けターンテーブルから、価格上昇、プレス品質、コレクション整理、視聴者の部屋までを取材する。購入の瞬間だけでなく、レコード趣味を長く続ける生活全体を扱います。

掘る・受け継ぐ ── Noble Records

「Vinyl House Call」で大量コレクションの眠る家へ行き、価値を見立て、店へ運ぶ。希少盤のリイシューも手がけ、個人の棚に止まっていた音楽を次のリスナーへ渡します。

商う・地域を作る ── Too Many Records

YouTubeから自主レーベル、ポートランドの実店舗へ展開。2026年の日本ディグ動画と店の新入荷動画が同じフィードに並び、「旅で見つける」と「地域で手渡す」が一本につながっています。

掘る・作る ── Vinyl Frontier

アジア盤を一曲単位で提示し、レコード鑑賞をサンプル探索へ変える。YouTube上では現在アーカイブに近い状態ですが、ヴァイナルが新しいビートの材料になり、別の作品へ生まれ変わる最後の工程を見せる存在です。

注目しておきたいポイント

高価格と品質への反応 — 市場は成長しても、新譜価格やプレス品質への不満は消えていません。Channel 33 RPMのような消費者目線の動画が、購入を促すだけでなく「買わない判断」まで扱うか。

YouTube発の店は持続するか — Noble RecordsとToo Many Recordsの循環は魅力的ですが、動画制作と在庫、買い付け、実店舗運営を同時に続ける負荷は大きい。短尺化、スタッフの登場、地域イベントなど、運営形式の変化を追いたいところです。

リイシューは希少盤への入口を広げるか — 高価なオリジナル盤を眺めるだけで終わらず、店主自身が権利者を探し、再発して届ける流れは、レコード系YouTubeができる最も具体的な文化保存の一つです。

e-Diggingの居場所 — Vinyl Frontierが再始動するのか、活動の中心を会員制コミュニティや別の配信先へ移しているのか。音源を扱うチャンネルにとって、YouTubeが今も最適な本拠地なのかを確認する必要があります。

日本盤ブームの次 — 「Japanese vinyl」という大きなくくりから、地域、年代、レーベル、演奏家まで掘り下げる方向へ進むのか。日本側からも海外の視線を翻訳できるチャンネルが現れるか注目です。

まとめ

2026年Q3の海外ヴァイナル系YouTubeは、昔の盤を懐かしむ場所ではありません。音楽との出会いを作る試聴室であり、失敗しないための案内所であり、埋もれた盤を受け継ぐ買い付け現場であり、店とレーベルへ人を運ぶ入口です。

My Analog Journalが聴く人を増やし、Channel 33 RPMが趣味を続ける知識を渡し、Noble RecordsとToo Many Recordsが現物を循環させ、Vinyl Frontierが次の作品へ使える音を掘り出す。物理メディアが伸びている背景には、盤そのものだけでなく、こうした発見、教育、市場、保存、制作をつなぐデジタルのインフラがあります。


関連チャンネル記事: My Analog Journal / Channel 33 RPM / Noble Records / Too Many Records / Vinyl Frontier

外部データ: IFPI Global Music Report 2026 / RIAA 2025 Year-End Revenue Report

このテーマの定点観測は今回が初回です。