Nahre Sol — クラシックを「完成品」ではなく、創造の出発点に戻すピアニスト
Nahre Sol 登録者 約83.2万人(2026年7月時点)
クラシックの訓練を土台に、ファンク、ジャズ、Lo-Fi、即興まで自ら学び、演奏と作曲へ変換するピアニストの音楽探究チャンネル。
ファンクを知らなければ、まず徹底的に聴く。強拍、細かなリズム、動きすぎないハーモニーを拾い、自分の小品を書いて演奏する。ルネサンス風の即興に取り組むときも、ギターを学び直すときも、完成した知識だけではなく分からないものへ近づいていく途中から見せる。
Nahre Sol は、音楽理論を説明するだけのチャンネルではない。クラシックで鍛えた耳と指を携えて、知らないジャンルへ入り、聴き、分解し、最後は自分の音へ変換する。ここには、音楽を学び続ける人の思考そのものが記録されている。
チャンネル概要
- 登録者数: 約83.2万人(2026年7月時点)
- 総再生回数: 8,757万回以上
- 動画本数: 362本
- チャンネル開設: 2017年2月
- 運営者: Nahre Sol(ピアニスト、作曲家、教育者)
- 主な内容: 音楽理論、作曲、即興、ピアノ練習法、ジャンル探究、オリジナル演奏
Nahre はジュリアード音楽院と、トロント王立音楽院のグレン・グールド・スクールで学んだクラシック奏者だ。2013年には Harriet Hale Woolley Grant を得てパリへ渡り、Francis Poulenc と Nadia Boulanger の系譜を引く音楽家たちのもとで研鑽を積んだ。
一方で、チャンネルの出発点は華やかな経歴の披露ではなく、クラシックの訓練でいったん固くなった創造性を取り戻すことだった。2017年の投稿開始から、練習記録、作曲、他ジャンルの研究を少しずつ公開。2019〜2020年には PBS Digital Studios の音楽教育番組「Sound Field」で L.A. Buckner と共同ホストを務め、音楽理論だけでなく、歴史や文化、制作まで扱う視野を広げている。
こんな人におすすめ
- 音楽理論を、暗記ではなく実際の響きとして理解したい人
- クラシックの技術を即興や作曲へつなげたいピアニスト
- 自分の専門外のジャンルを、敬意を持って学ぶ方法を知りたい人
- 練習が「正しい反復」だけになり、創造性を失っていると感じる人
- ジャズ、ファンク、Lo-Fi、現代音楽を横断して聴きたい人
- 完成した演奏より、試行錯誤の過程に惹かれる人
言語・字幕について
解説は英語。長尺動画の多くで英語の自動字幕を利用でき、YouTube の自動翻訳も使える。Nahre の話し方は落ち着いていて明瞭だが、和声、音色、認知といった抽象的な話へ進む動画では、英語を追う集中力が少し必要になる。
ただし、説明した内容をすぐピアノで鳴らし、音名、図、楽譜、映像の比喩でも補ってくれる。たとえばハーモニーを「花束」や「重力」、聴く解像度をカメラのフォーカスに置き換えるため、単語を一つ聞き逃しても意味を取り戻しやすい。演奏中心の回やショート動画なら、英語をほとんど使わず楽しめる。
チャンネルの雰囲気
このチャンネルで音楽理論は、「すでに決まっている正解」ではなく、音をよく聴くためのレンズとして扱われる。
「How I wish HARMONY was explained to me as a student」では、コードを一直線に暗記するのではなく、互いの周りを回る立体的な存在として捉える。協和と不協和も絶対的な規則ではなく、文化、文脈、好みで変わるものとして説明する。難しい概念を薄めるのではなく、最初に持つべき大きな像を示してから細部へ進む教え方だ。
もう一つの柱が、「As Digested by a Classical Musician」に代表されるジャンル探究。ブルース、ファンク、ゴスペル、フラメンコ、Lo-Fi Hip Hopなどを聴き込み、特徴を採取し、自分で短い作品を書く。外からジャンルを採点するのではなく、まず自分の不慣れさを認め、実際に手を動かして理解しようとする。この誠実さが、動画を解説と演奏のどちらにも収まらないものにしている。
映像はピアノの手元、本人の語り、簡潔なグラフィックを行き来する端正なスタイル。近年は長尺の音楽エッセイや練習動画の合間に、数十秒の即興、リズム実験、ギター学習なども投稿している。2026年7月にも長尺動画とショートを継続しており、昔の代表作だけで止まったチャンネルではない。
注目の動画
「How I wish HARMONY was explained to me as a student」(約225万再生)
スケール、コード、ルート、コード進行、倍音、五度圏、協和と不協和を8分半で一本の景色へまとめる。専門用語を順番に覚えさせるのではなく、「音はどう一緒に振動し、どこに緊張と解放が生まれるのか」から全体を捉える、Nahre の教育スタイルが最もよく分かる一本だ。
「Warm-Up Exercises That Sound Pleasant But Make You WORK」(約228万再生)
ウォームアップを無機質な指の体操で終わらせず、音楽として心地よく響くパターンへ変える。技術と創造性を分けないというチャンネルの考え方が、5分弱に凝縮されている。
「Funk, As Digested by a Classical Musician」(約52.8万再生)
ファンクに馴染みのなかったクラシック奏者が、録音を聴き、強拍、細分、反復、和声の動きを観察し、自作曲へ落とし込む。知識を語る前に、自分で学び方を実演する「As Digested」シリーズの原点の一つ。
「Improvising in the Style of Different Classical Composers」(約52.7万再生)
Bach、Mozart、Beethoven、Chopinなど、それぞれの作曲家の語彙を取り出して即興する。単なる物まねではなく、様式を構成するリズム、和声、身振りを演奏可能な言葉へ戻していくのが面白い。
「10 Levels of Advanced Listening」
2026年7月公開の長尺動画。テンポや音色から始まり、音楽の呼吸、進行方向、声部の対話、エネルギー、記憶へと、聴き方を10段階で深めていく。Princeton University の音楽認知研究者 Elizabeth Margulis も登場し、現在のNahreが「弾き方」から「なぜ聴くのか」まで射程を広げていることが分かる。
チャンネルの歩き方
まず一本なら、「How I wish HARMONY was explained to me as a student」から。音楽理論の知識が少なくても入れて、説明、比喩、ピアノ実演のバランスを一度に味わえる。
ジャンルを横断したいなら、「As Digested by a Classical Musician」を検索する。自分が知っているジャンルから見るのも、Nahre と一緒にまったく知らない音楽へ入るのもいい。
ピアノを弾くなら、ウォームアップ、アルペジオ、練習パターンの動画へ。速さだけを目標にせず、音色、フレージング、即興へつながる練習を探せる。
作曲や即興を深めたいなら、「How to Sound Like…」や作曲家別の即興動画へ進む。特徴を分析した直後に自分でも短い曲を書いてみると、このチャンネルの見方が「鑑賞」から「実験」へ変わる。
現在地を知りたいなら、2026年の「10 Levels of Advanced Listening」と「10 Patterns I Wish I’d Practice Sooner」から。長年の探究が、聴くことと練習することをどう結び直したかが見える。
動画の外に広がる活動
Nahre は演奏家、作曲家として北米や欧州の舞台に立ち、作品はニューヨーク、パリ、ブエノスアイレス、ハンブルクの Elbphilharmonie などで初演されてきた。2020年のアルバム『Alice in Wonderland』では、ソロピアノ、シンセサイザー、プリペアド・ピアノを用い、ミニマリズム、ジャズ、20世紀フランス音楽を自分の作曲語法へまとめている。
映像作品では『The Boss Baby: Family Business』の音楽や、音楽ゲーム『DEEMO II』にも参加。チャンネルで繰り返している「異なる音楽言語を学び、自分の言葉にする」姿勢が、そのまま実作にもつながっている。
2026年は作曲家としての動きも鮮明だ。7月にはヴィオラとピアノのための「Shadow Walkers」がVerbier Festivalでスイス初演され、8月にはNorfolk Chamber Music Festivalの委嘱作「Dust and Clover」が初演される予定。動画で見せる探究が、演奏会のために書かれた新作へ流れ込んでいる。
教材『Nahre Sol’s Elements of Music』は、読譜、リズム、ハーモニー、スケール、旋法、メロディを扱う113ページのデジタルブック。70本以上の補助動画を組み合わせ、理論を読むだけでなく実際に聴ける形へしている。YouTube から体系的な学習へ進みたい人の次の入口だ。
関連チャンネル
- Adam Neely — ジャズ、リズム、文化批評まで掘るベーシスト。Nahre とはループを扱う動画でも共演している
- David Bennett Music Theory — ポップスの実例とピアノで理論を解く。既知の曲から入りたい人に
- 12tone — 五線紙と手描きアニメーションで楽曲構造を分析。演奏より視覚的な説明を好む人に
- Andrew Huang — ジャンルと道具を横断し、学んだ概念をすぐ制作へ変えるクリエイター
- Hainbach — 古い測定機器やテープを作曲へ変換。音そのものを実験対象にする姿勢が通じる
- Charles Cornell — 身近な映画やゲームを入口に、耳で見つけた仕掛けをすぐピアノで確かめるジャズ・ピアニスト
まとめ
Nahre Sol は、音楽理論を「知っていることの証明」ではなく、まだ知らない音へ近づくために使う。クラシック、ファンク、ジャズ、Lo-Fi、現代音楽の間を往復し、そのたびに聴き方と弾き方を更新していく。
上手な演奏を見て終わるのではなく、自分も何かを聴き直し、試したくなる。音楽を長く続けているのに少し固くなってしまった人ほど、このチャンネルから新しい入口を見つけられるはずだ。