Venus Theory — 音作りの先で「なぜ作る?」を問い続ける
Venus Theory 登録者 約43.9万人(2026年8月時点)
シンセの音作りから作曲、ゲーム音楽、創作の不安まで。技術と哲学を同じ机で語るVenus Theoryの音楽制作チャンネル。
巨大なアンビエント・パッドを作る。シンセを三層に分け、ゆっくり揺らし、リバーブとテープの汚れを足す。プリセットが完成しても、Venus Theoryはそこで終わらない。「この音はどんな景色を見せるのか」「ほかの音は、この景色へ何を足すべきか」と考え始める。
別の動画では、DAWの画面すら開かず、「誰にも聴かれないなら、なぜ音楽を作るのか」を15分かけて語る。技術と哲学は別々の話ではない。音をどう作るかと、何のために作るかを、同じ制作工程として扱う。それがVenus Theoryというチャンネルだ。
チャンネル概要
- 登録者数: 約43.9万人(2026年8月時点)
- 総再生回数: 4,422万回以上
- 動画本数: 440本
- チャンネル開設: 2017年1月
- 運営者: Cameron Gorham(ミュージシャン、作曲家、サウンドデザイナー)
- 主な内容: サウンドデザイン、作曲、音楽制作、ゲーム/メディア音楽、機材、創作哲学
Cameron Gorhamは、ゲームやメディアのための音楽とサウンドを制作するクリエイターだ。公式プロフィールでは、インディーチームから大手スタジオまで仕事を行い、その制作過程をYouTubeで共有していると紹介している。
自身の音楽は、広がりのあるアンビエントやシネマティック・エレクトロニックが中心。過去のプロフィールでは、Lo-Fi、Trap、Neurofunkまで扱うサウンドデザイナー/プロデューサーとも紹介されている。Bitwig Studioを使った初期の実践講座から、フリーのシンセやエフェクト紹介、作曲法、長尺の音楽エッセイまで、440本の中にはかなり異なる入口が共存している。現在のゲーム作曲では、細かくカスタマイズしたReaperを中心に使う。
教えるだけでなく、作品を作り続けていることも重要だ。2025年にはObsidian EntertainmentのRPG『Avowed』で作曲を担当。Bandcampにはオリジナル・アルバムのほか、Warrior Tierの『Horus Rising Act III』や、Territoiresと共同制作したホラーゲーム『Don’t Look at Grandma』のOSTも並ぶ。動画で語るサウンドデザインや制作上の迷いが、実際の仕事とリリースへつながっている。
こんな人におすすめ
- シンセの操作だけでなく、音色を選ぶ理由まで考えたい人
- アンビエント、シネマティック、ダークな電子音楽を作りたい人
- 曲を完成できず、選択肢の多さに疲れている人
- 再生数や反応が気になり、作品を公開するのが怖くなった人
- ストリーミング、生成AI、プラットフォームと音楽の関係を考えたい人
- ゲーム音楽やメディア向け作曲の実際の工程を見たい人
言語・字幕について
解説は英語で、多くの動画に英語の自動字幕があり、YouTubeの自動翻訳も利用できる。Cameronの発音は明瞭だが、乾いた冗談を高速で挟み、音楽制作、哲学、テクノロジーの話を一息に横断する。長尺エッセイを細部まで追うには、字幕をオンにして少し集中したい。
サウンドデザイン動画は、英語をすべて聞き取れなくても入りやすい。シンセの画面、MIDIキーボード、処理前後の音を順に見せるため、何を変えたかは視覚と耳で追える。反対に、創作や業界を扱う回は言葉が主役。自動翻訳を使い、気になる段落で一時停止しながら見るのがおすすめだ。
チャンネルの雰囲気
暗いスタジオ、映画のようなカラーグレーディング、低く落ち着いた声。そして毎回のように始まる「Howdy」。端正な画面へ、とぼけた自虐と乾いた冗談を差し込む。この落差が、重くなりやすい創作の話へ入りやすい温度を作っている。
技術動画では、まず完成した音を聴かせ、構成要素へ分解し、最後にもう一度組み立てる。パッドなら、低中域、明るい中高域、わずかなノイズを別々の層にする。各層へ異なる動きを与え、リバーブ、歪み、ピッチの揺れ、質感を足す。ただし、「このプラグインを使えば完成」とは教えない。大切なのは、各処理が補い合っているか、音が静止せず呼吸しているか、聴き手にどんな情景を渡すかだ。
たとえば無料リバーブのValhalla Supermassiveも、単に「大きく響く便利なエフェクト」としては登場しない。別のリバーブと聴き比べ、より空気があり、夢や宇宙を感じる響きとして選ぶ。機能ではなく役割から道具を見るので、同じプラグインを持っていなくても考え方を持ち帰れる。
もう一つの柱が、創作を続けるためのエッセイだ。ミニマリズム、クリエイティブ・ブロック、作品を公開する怖さ、ストリーミングによる音楽の変化を、制作者の実感から掘る。答えはいつも前向きとは限らない。再生されない現実や、仕事と表現が衝突する瞬間も認めたうえで、それでも何を自分の基準にするかを考える。
近年はさらに範囲が広がった。2025年には音楽ストリーミングやメロディの変化、ゲームのスコア制作を扱い、2026年には生成AI、音楽制作者のOS選び、オンライン広告まで取り上げている。音楽の作り方を教えるチャンネルが、やがて作る人を取り囲む技術と経済の仕組みまで調べ始めた形だ。
YouTubeで教えた音が『Avowed』へ
Venus Theoryの活動で象徴的なのが、2025年発売のファンタジーRPG『Avowed』だ。Cameronはプロジェクトへ約8か月参加し、実制作の約6〜7か月でスコアを書き、ミックスとマスタリングまで自宅スタジオで仕上げた。
きっかけも、このチャンネルと地続きだった。Obsidianの制作責任者Ryan Wardenは以前から彼の音楽と動画を見ており、CameronがUVIと共同開発し、無償公開した音源「Noctua」も仮楽曲に使っていた。その後、別のオリジナル曲を聴いたことから起用を思い付き、Cameronは依頼を受けて提案曲と説明動画を制作。チュートリアル、無料ツール、作品の蓄積が、大規模ゲームへ挑む機会につながった。
スコアは、物語の序盤では管弦楽寄りのファンタジーとして始まり、世界が異質になるにつれて極端なタイムストレッチやスペクトル系シンセへ変化する。プレイヤーのテーマも善悪を決め付けず、分岐する選択が残す「結果の感触」を描くよう設計した。音色を飾りではなく物語として扱う、YouTubeでの教え方が最も大きな規模で実践された仕事だ。
完成後には制作過程を約20時間の有料映像コースへまとめた。大作を手掛けた実績を秘密にするのではなく、どう作ったかをまた教材へ戻す。ここにも、作曲家と教育者を分けないVenus Theoryらしさがある。
注目の動画
「Musical Minimalism: How To Finally Finish Your Songs」(約95万再生)
Terry Riley、Steve Reich、La Monte Youngらのミニマル音楽を入口に、「少なくすること」と「必要なものだけを残すこと」の違いを考える一本。
アレンジでは、同時に注目させる要素を三つほどに絞る。ミックスや音作りでは、習慣でエフェクトを挿さず、最終結果へ何を足しているかを問う。曲を完成できない原因を才能不足ではなく、すべての可能性を残したまま決められない状態として捉え直してくれる。
「The Playlistification of Music」(約102万再生)
チャンネルを代表する長尺エッセイ。Spotifyや短尺動画の仕組みが、曲の長さ、構成、テンポ、ムード、冒頭の作り方へどんな圧力をかけるかを追う。
短い曲や分かりやすい音楽を否定するのではなく、プレイリストへ入ることが目的になると、アーティストではなく状況に合う「音」が前面へ出やすいと整理する。作り手がアルゴリズムを無視できない現実と、自分の表現をどこまで合わせるかという難題が見えてくる。
「Why make music when nobody cares?」(約37万再生)
作品を完成させても、反応も収入もほとんどないかもしれない。それなら、なぜ公開するのか。Cameron自身が、友人のBenn Jordanと約5,000マイルを移動して作った大きな企画を前に、その疑問と向き合う。
結論は「数字を気にするな」という単純な精神論ではない。人へ届けたい欲求も認めながら、成功を期待することと、起こり得る結果へ開かれていることを分ける。たった一人へ届くこと、自分が作る時間を生きることも、作品が持つ十分な影響になり得る。Venus Theoryの創作哲学を最初に見るなら、この一本だ。
「How To Create AMAZING Pads and Drones」(約25万再生)
パッド、アンビエンス、ドローンを約30分で設計する実践講座。レイヤー、ゆっくりしたモジュレーション、補完と対比、リバーブ、テープの揺れ、ノイズを組み合わせ、一つの持続音を小さな音響世界へ育てていく。
この動画の本当の見どころは、設定値ではない。冷たさ、遠くの嵐、古い写真、記憶といったイメージを音の判断へ翻訳し、最後は「その音が語ろうとしている方向へほかの要素を置く」ところまで進む。技術と物語が分かれていないことがよく分かる。
「I Got To Score Warhammer 40k」(約8.9万再生)
Warrior Tierの40k音声ドラマ『Horus Rising Act III』へ音楽を付けた工程を見せる作曲回。巨大な世界観に合う音を探し、語りと展開を支える構成へまとめ、ミックスとマスタリングまで仕上げていく。
チュートリアルで話してきたレイヤー、質感、意図的な制限が、実案件でどう使われるかを確認できる一本だ。完成したサウンドトラックもBandcampで公開されており、「教える人」と「現場で作る人」が同じ線上にいる。
チャンネルの歩き方
音作りから入るなら、「How To Create AMAZING Pads and Drones」から。気に入ったら、Vitalやフリーシンセ、テクスチャ、リバーブを扱う過去のチュートリアルへ進む。画面のバージョンが古くても、レイヤーや動きの考え方は今も使える。
曲を完成させたいなら、「Musical Minimalism」へ。その後に「The Trick That Unlocked Music For Me」でモードと借用の発想を学ぶと、減らす判断と広げる判断の両方を持てる。
作る意味を見失っているなら、「Why make music when nobody cares?」を先に見る。続けて2026年の「So AI Makes Better Music Than You…Now What?」へ進むと、評価、独自性、人が作る意味という問いが現在の技術環境までつながる。
音楽業界を考えたいなら、「The Playlistification of Music」から「It’s Not Just You: Music Streaming Is Broken Now」へ。個々の曲作りだけでなく、作品が発見され、分類され、収益へ変わる仕組みを長い時間軸で見られる。
作曲の仕事を見たいなら、「How I Make Music For Video Games」から「I Got To Score Warhammer 40k」へ。さらに『Avowed』の制作コースと、Bandcampの『Horus Rising Act III』、Territoiresとの共同OST『Don’t Look at Grandma』まで進むと、解説で語られた「音で世界を作る」が完成作品として残っている。
音を作る技術と、作り続けるための哲学
Venus Theoryがほかの制作教育チャンネルと違うのは、テクニックの後に哲学を足したのではなく、最初から両者を同じ問いで扱っていることだ。
音色には「この処理は必要か」、曲には「核となるアイデアは何か」、公開時には「数字以外にどんな影響を望むか」と問う。対象がシンセ、アレンジ、人生へ変わっても、やっていることは意図を見つけ、不要なものを外し、残ったものを引き受けることで一貫している。
関連チャンネル
- Underdog Electronic Music School — 電子音楽のグルーヴと構造を図解し、DAW上の判断へ落とす。Venus Theoryが音色の意図と作る理由を掘るなら、Underdogは時間の設計を見える形にする
- Andrew Huang — 制約、サンプル、楽器を遊びへ変える音楽クリエイター。Venus Theoryが内省から意図を掘るなら、Andrewは実験から可能性を広げる
- You Suck at Producing — Ableton Liveの具体操作と乾いたユーモアで制作を教える。笑いながら手を動かす入口が欲しい人に
- In The Mix — ミックス、シンセ、音響の基礎を体系的に整理。Venus Theoryの「なぜ」を支える技術を順番に固められる
- Hainbach — 古い計測器やテープの質感から音楽を作る実験家。音色に記憶や景色を持たせる姿勢が通じる
- Red Means Recording — ハードウェアとモジュラーを演奏し、偶然を作品へ変える。DAWの外からサウンドデザインを見たいときに
- Nahre Sol — 知らないジャンルを聴き、演奏し、作曲へ変換するピアニスト。技術を創造性へ戻すという点で重なる
まとめ
Venus Theoryは、音楽制作を「正しい設定の集まり」として教えない。レイヤー、モジュレーション、リバーブ、コード、ミニマリズム、ストリーミング。どの話題も最後には、自分は何を伝えたいのかという一点へ戻ってくる。
音は作れる。でも、曲が終わらない。完成しても、公開するのが怖い。公開しても、誰も聴いてくれないかもしれない。そんな制作の全工程を、技術だけでも励ましだけでもなく引き受けてくれる。作り方と作る理由を、同時に立て直したい人に刺さるチャンネルだ。